農林水産大臣殿

植物防疫法に基づく外国産昆虫の輸入規制緩和に対する要望書

 日本に定着した外来昆虫は江戸末期以降の記録の明らかなものに限っても300種以上にのぼるといわれています。侵入のプロセスには、輸入貨物に紛れた非意図的な導入のほか、有用昆虫として輸入され、逸出したケースも少なくありません。しかし外来昆虫は、他の外来生物で指摘されているように、農林業などの産業に打撃を与え、人間に健康被害を及ぼすことがあるばかりでなく、在来生態系を変質・破壊し、在来近縁種との交雑により遺伝的撹乱を引き起こすなど、在来の生物多様性を劣化させる恐れがあります。最近、愛玩昆虫として輸入が認められ、その輸入量が激増している外国産カブトムシやクワガタムシ類では、以下に説明するような重大な問題が発生していることが判明しました。
 平成11年以降、それまで植物防疫法によって検疫有害動物とされていた外国産カブトムシ、クワガタムシ類の生体の輸入規制が大幅に緩和され、年間数十万頭もの大量の外国産種が日本に持ち込まれるようになりました。その結果、逃亡や放虫が原因と考えられる外国産カブトムシやクワガタムシの野外発見例が急増し、現在までに全国から少なくとも20種以上もの外国産種の発見例が報告されています。
 先頃(平成14年9月13日付)の規制緩和によって、輸入許可対象種はカブトムシ、クワガタムシ合わせて400種を超えており、今後さらに様々な外国産種が野外で発見されることが予想される状況です。これら外国産種の中には日本での野生化が可能と考えられる種も多く、万一定着することになれば農作物への加害をはじめ、様々な外来種問題を引き起こしかねないものと危惧されます。そもそも輸入が許可されている種の中には、原産国で実際に害虫となっている種や、害虫として知られている種にごく近縁な種など、野生化すれば日本でも害虫になり得る可能性が極めて高い種も多数含まれていて、一連の輸入規制緩和における安全性の判断基準に大きな疑問を抱かざるを得ません。そればかりではなく、熱帯産大型ハナムグリやテナガコガネをはじめとする輸入禁止種が大量に密輸され公然と販売されていたり、原産国で保護されているものが不正に採集され、日本に輸入されているなどの問題も起きています。このことは、CITES のような多国間条約や輸出国の生物資源保護政策に抵触し、国際問題に発展する恐れがないとも言い切れません。もちろん、これらの多くは植物・果実を食することが確認されており、野生化した場合には農作物への加害が危惧されるところです。そればかりか、これらは在来生態系のバランスを乱し、在来種への致命的な病疫や寄生虫を伝播したり、わが国の近縁種との交雑により遺伝的撹乱を引き起こすなど、生物多様性を劣化させ、わが国の自然環境を破壊する恐れがあります。
 日本昆虫学会、日本鞘翅学会、日本甲虫学会、日本昆虫分類学会は、このような現状を鑑み、様々な外来種問題を未然に防ぐためには外国産昆虫の生体の輸入に関連した現行の植物防疫法の施行体制を改善するべきとの認識に達しましたので、以下の事項を強く要望するものです。

1.現行法の厳しい施行を実施すること
 植物防疫法で現在輸入が禁止されている種の持ち込みについて、よりいっそう厳しい監視体制をとる。輸入許可に際しては、輸出国や輸入経路などの詳細なデータの提出を義務付け、国はこれを的確に把握、管理するシステムを構築する。輸入禁止対象種の売買はもちろん、所持も違法として取り締まり、違反に対しては罰則規定を設ける。

2.安全性評価のための専門家委員会を設置すること
 輸入許可申請のあった外国産種に関して、有用植物に対する害虫化の可能性を科学的に評価し、輸入の可否を検討するために、有識者からなる専門家委員会を設置する。輸入の可否判断にあたっては、害虫化の可能性が高い種はもちろん、安全性が不明な種も予防原則に基づき、輸入は許可しない。

3.既に輸入が許可されている種の安全性に関する見直し評価を行うこと
 既に輸入が許可されている種に関しても、害虫化の危険性評価をあらためて行う。害虫化の可能性が高い種はもちろん、安全性が不明な種も予防原則に基づき、輸入禁止対象に戻し、国内に現存する個体の流通・飼育を原則として禁止する。また、場合によっては、輸入規制緩和全体の見直しも検討する。

4.原産国から不正に輸出された昆虫の輸入を禁止すること
 原産国の保護昆虫や商業取引が禁止されている種を輸入禁止とし、国内での売買や所持も禁止する。違反に対しては罰則規定を設ける。

5.関係者への普及啓発を行うこと
 昆虫輸入業者や販売業者、飼育利用者等に対して、決して外国産昆虫を野外に放ったり、それらが逸出することのないよう、適切な管理・飼育を行うことを周知徹底させること。


平成14年12月25日

日本昆虫学会
〒169-0073 東京都新宿区百人町3-23-1 国立科学博物館分館動物研究部気付
Tel. 03-3364-7129; Fax. 03-3364-7104
会 長 内藤親彦
自然保護委員長 石井 実

日本鞘翅学会
〒169-0073 東京都新宿区百人町3-23-1 国立科学博物館分館動物研究部昆虫第二研究室気付
Tel. 03-3364-7126;Fax. 03-3364-7104
会 長 大林延夫
自然保護委員長 高桑正敏

日本甲虫学会
〒546-0034 大阪市東住吉区長居公園1-23 大阪市立自然史博物館昆虫研究室気付  
Tel. 06-6697-6221; Fax. 06-6697-6225
会 長 佐々治寛之

日本昆虫分類学会
〒790-8566 松山市樽味3-5-7 愛媛大学農学部昆虫学究室気付
Tel&Fax. 089-946-9898
会 長 大林延夫


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