環境大臣殿

外国産昆虫の輸入に関わる外来種管理法の早期設置に向けての要望書

 日本に定着した外来昆虫は江戸末期以降の記録の明らかなものに限っても300種以上にのぼるといわれています。侵入のプロセスには、輸入貨物に紛れた非意図的な導入のほか、有用昆虫として輸入され、逸出したケースも少なくありません。しかし外来昆虫は、他の外来生物で指摘されているように、農林業などの産業に打撃を与え、人間に健康被害を及ぼすことがあるばかりでなく、在来生態系を変質・破壊し、在来近縁種との交雑により遺伝的撹乱を引き起こすなど、在来の生物多様性を劣化させる恐れがあります。例えば、近年、施設栽培野菜の花粉媒介用に輸入されているセイヨウオオマルハナバチでは、既に野外への逸出が確認され、近縁在来種の巣の乗っ取りやそれとの交雑、外来寄生生物の随伴などの懸念が現実のものとなりつつあります。また、つい最近愛玩昆虫として輸入が認められ、その輸入量が甚大な外国産カブトムシやクワガタムシ類では、以下に説明するような重大な問題が発生していることが判明しました。
 日本ではとくに1980年代以降、クワガタムシなどの大型甲虫類の飼育が顕著なブームとなり、従来からの開発による生息地の破壊に加えて、商品化が引き起こした乱獲によって日本各地の自然個体群は著しい打撃をこうむっています。これに加えて、一昨年末以降、それまで植物防疫法によって検疫有害動物とされていた外国産の生きたカブトムシやクワガタムシの輸入が大幅に規制緩和され、年間数十万頭もの個体が日本に持ち込まれるようになったことで、こうした在来種の危機的状況にいっそう拍車がかかりつつあります。すなわち、輸入個体数の増加に伴って、逃亡や放虫が原因と考えられる外国産カブトムシやクワガタムシの野外発見例が急増し、現在までに全国から少なくとも20種以上もの外国産種の発見例が報告されています。これら外国産種の中には日本での定着が可能と考えられる種も多く、大型で競争力の強い外国産甲虫類が野生化した場合、日本在来の甲虫相は深刻なダメージを受けることになると予想されます。また、交雑実験によって外国産種と在来種の間で妊性のある雑種が生じる事例も確認されたばかりか、野外でも在来種との雑種が実際に生じていることが報告されたことから、現実問題として遺伝的浸食の拡大が懸念されます。加えて、外国産種に随伴して侵入してきた可能性の高いダニの寄生による在来種の死亡例も報告されるなど、未知の寄生生物の蔓延も心配されます。事態はそればかりでなく、熱帯産大型ハナムグリやテナガコガネをはじめとする輸入禁止種が大量に密輸され公然と販売されていたり、原産国で保護されている種が不正に採集され、日本に輸入されているなどの問題も起きています。これらは日本固有の生物多様性保全の問題だけでなく、生物多様性条約を批准した日本の姿勢そのものが問われる問題と思われます。
 日本昆虫学会、日本鞘翅学会、日本甲虫学会、日本昆虫分類学会は、このような外来種が日本固有の生物多様性を減少させる脅威となるという視点から、それを未然に防ぐための新しい法律の設置が必要との認識に達し、外国産昆虫の輸入および流通に関して、以下の内容を含む外来種管理法の早急な設置を強く要望するものです。

1.外国産昆虫の輸入を厳しく制限すること
 生体の外国産種の輸入については、すべて国の許可を得ることを義務付けるなど、条件を厳しくする。輸入許可に際しては、輸出国や輸入経路などの詳細なデータの提出を義務付け、国はこれを的確に把握、管理するシステムを構築する。国内での外国産種の放虫、および営利目的の国内産種との交雑を禁止する。違反に対しては罰則規定を設ける。

2.生態系へのリスク評価のための専門家委員会を設置すること
 輸入許可申請のあった外国産種に関して、随伴する寄生生物による影響を含め、国内生態系へのリスクを評価し、輸入の可否を検討するために、有識者からなる専門家委員会を設置する。輸入の可否判断にあたっては、高いリスクが予想される種はもちろん、リスクが不明な種も予防原則に基づき、輸入は許可しない。また、既に輸入が許可されている種に関しても、あらためて在来生態系に対するリスクの再評価を行う。高いリスクが予想される種はもちろん、リスクが不明な種も予防原則に基づき、輸入禁止対象に戻す。

3.原産国から不正に輸出された昆虫の輸入を禁止すること
 原産国の保護昆虫や商業取引が禁止されている種を輸入禁止とし、国内での売買や所持も禁止する。違反に対しては罰則規定を設ける。

4.既に国内に現存する外国産種の管理体制を整えること
 専門家委員会によって輸入不可とされた種、ならびに原産国から不正に輸出された種については、国内に現存する個体の流通・飼育を原則として禁止する。万一、野生化した外国産個体群が確認された場合は早急な駆除対策をとる。

5.関係者への普及啓発を行うこと
 昆虫輸入業者や販売業者、飼育利用者等に対して、決して外国産昆虫を野外に放ったり、それらが逸出することのないよう、適切な管理・飼育を行うことを周知徹底させること。また、外来種管理法施行後は、法の趣旨を周知徹底させること。


平成14年12月25日

日本昆虫学会
〒169-0073 東京都新宿区百人町3-23-1 国立科学博物館分館動物研究部気付
Tel. 03-3364-7129; Fax. 03-3364-7104
会 長 内藤親彦
自然保護委員長 石井 実

日本鞘翅学会
〒169-0073 東京都新宿区百人町3-23-1 国立科学博物館分館動物研究部昆虫第二研究室気付
Tel. 03-3364-7126;Fax. 03-3364-7104
会 長 大林延夫
自然保護委員長 高桑正敏

日本甲虫学会
〒546-0034 大阪市東住吉区長居公園1-23 大阪市立自然史博物館昆虫研究室気付  
Tel. 06-6697-6221; Fax. 06-6697-6225
会 長 佐々治寛之

日本昆虫分類学会
〒790-8566 松山市樽味3-5-7 愛媛大学農学部昆虫学究室気付
Tel&Fax. 089-946-9898
会 長 大林延夫


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