日本昆虫学会第62回大会シンポジウム 「わが国における昆虫の外来種問題」


日 時: 2002年9月29日(日)13:00-15:30
場 所: 富山大学五福キャンパス 人文・社会系共通教育棟校舎
主 催: 日本昆虫学会自然保護委員会

内容


(講演要旨)


外来種問題: 問題の本質は何か  桐谷圭治(伊東市)

 外来種の定義は、外来という言葉のイメージが各人各様のため難しい。「その種の自然分布域外に発生する種」が外来種の最低条件である。その他の移入期間、地域限定、移入手段、定着の可否などの条件設定はケースバイケースである。外来種問題がここ10数年来クローズアップされるようになったのは、地球的規模の環境問題と切り離しては考えられない。すなわち、過去の時代には何千、何万年かけて起こった環境の変化が、現在、比類のない規模と速度で進行しており、外来昆虫の問題もその例外でない。例えば昆虫の南北の移動を妨げていた赤道通過も、現在の高速貨物船では障害ではなくなった。貿易の自由化、輸送手段の規模拡大と高速化、人口増加による撹乱環境の増大、地球温暖化はいずれをとっても外来昆虫がますます増加していく事を暗示している。生物多様性を損なう最大の要因は環境破壊とされてきたが、21世紀では外来生物の侵入が環境破壊に代わって重要化し、世界的な生物相の均質化と土着種の絶滅による多様性の貧困化が予想される。生物多様性条約第8条(1993)には「生態系、生息地もしくは種を脅かす外来種の導入を阻止、制御、もしくは撲滅すること」と宣言され、従来、侵入害虫による農作物や森林の経済的被害にのみ目を向けていたのが、この条約を契機に侵入昆虫の生物多様性への負の影響が、その非可逆性から経済的損失以上に注目されるようになった。


外来のアリが生態系に及ぼす影響  寺山 守(東京大学農学部)

 アリ類では,物資の移動や交通機関に便乗して人為的環境に侵入し,分布を世界的に拡大させた種が多く見られる.これらのアリを放浪種 "tramp species" と呼び,日本でも小笠原諸島や南西諸島に生息するアリの少なからずの種がこれに該当する.放浪種の中には,農作物害虫,衛生害虫,さらには生態系撹乱を引き起こすアリとして世界的に警戒されている種も存在する.近年,そのような種の中でアカカミアリとアルゼンチンアリが国内に侵入した.
 アメリカ大陸で"fire ants" (カミアリあるいはヒアリ)と呼ばれているアリ類は,人や家畜への刺咬被害を頻発させているアリとして有名である.その内の1種,アカカミアリが硫黄島に完全に定着した.2001年の調査では島のほぼ全域に生息し,すでに本島での最普通種となっていることが判明した.また,沖縄島の米軍基地内では,1996年に本種に刺された米兵が強度のアナフィラキシーショックを引き起こし,アレルギー疾患に対応可能な合衆国内の陸軍医療センターに送られるという事件も発生している.
 アルゼンチンアリは,1993年に広島県廿日市市で最初に発見され,近年,広島県の他地域や山口県,兵庫県での生息が認められている.確実に本土での分布が広がりつつある.本種による侵入地域の生態系への影響は重大で,在来の動物相は甚大な影響を受けると同時に,捕食者や送粉者,種子運搬者の減少により植物への影響も危惧される.今回,アカカミアリとアルゼンチンアリを中心に,外来のアリが日本の生態系に与える影響について論議したい.


セイヨウオオマルハナバチの輸入とその在来生物に与える影響 横山 潤(東北大・院・生命科学)

 ヨーロッパ原産のセイヨウオオマルハナバチ Bombus terrestris (Linnaeus, 1758) は、主にハウス栽培トマトの授粉昆虫として全国で利用されている。1992年より本格的な輸入が始まり、毎年3〜4万コロニーが輸入されていると推定されている。輸入開始当初から野生化の可能性が懸念されていたが、その懸念は、1996年の自然巣の発見で現実のものとなった。そして1996年から現在までに、実に22都道府県から野外での本種の目撃・採集情報が得られている。
 このまま本種の野生化が進行すると、在来生物に以下のような影響を与える可能性がある。1)在来マルハナバチ類が餌や営巣場所を奪われる。2)オオマルハナバチでは、交雑によって純粋集団が失われる。3)同時に持ち込まれる寄生生物が、在来マルハナバチ類の生存に悪影響を及ぼす。4)在来マルハナバチ類に送扮される植物種の種子繁殖が阻害される。本講演では、これまでの調査結果をもとに、これらの影響がどれくらい現実のものとなっているのかを概観し、今後深刻化するこれらの問題点に、どのように対処すべきについて考えてみたい。


ペット大型甲虫の輸入がもたらす問題 荒谷邦雄(九州大学大学院比較社会文化研究院)

 カブトムシやクワガタムシをはじめとする大型甲虫類は、ペットとして昔から根強い人気を誇ってきたが、平成11年以降、外国産生体の輸入規制が大幅に緩和されたことで、大量の外国産種が日本に持ち込まれるようになった。昨年一年間だけでも輸入されたカブト・クワガタの総数は実に100万頭以上にのぼっている。輸入可能な種に紛れて多くの輸入禁止種が半ば公然と密輸されている事実も見逃せない。こうした中で、逃亡や放虫が原因と見られる外国産種の採集記録が急増したばかりか、外国産との交雑個体が野外で採集されたり、外国産種によって持ち込まれた可能性の高いダニの寄生による在来種の死亡例も報告されるなど、外国産種がもたらしうる様々な弊害は、もはや現実の脅威となってきている。こうした現状にあって、本講演では、ペット大型甲虫の輸入がもたらす問題に関して、1)環境や農作物に及ぼす被害、2)在来種との競合、3)在来個体群に対する遺伝子汚染、4)在来種への病疫・寄生虫伝播、5)地域ファウナ調査に対する撹乱、6)原産国への影響、の6つの観点から検討するとともに、深刻化する事態への対策に関しても議論してみたい。


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